ソーシャルゲームの開発支援ソクゲーを作った人の昔話

尾藤正人(びとうまさと) ピー・アンド・エー・ラボ 客員起業家 1977年7月20日、愛媛県出身広島市立大学大学院卒業。在学中にVine Linux SPARC版の開発を行う。2002年4月、HDEに入社。2003年度未踏ユースプロジェクトに採択され、「みかん - サーバ自動選択型FTPサーバの開発」を行う。退職後、語学留学のため渡米。2004年12月、帰国してウノウに参画。CTOとして従事した後、退職。現在は起業に向けて準備中。
■技術をオープンにしたら、優秀なエンジニアが集まった

 ウノウの最初のエンジニアとして立ち上げ時から参画して、4年間働きました。CTOだったんですが、実は特にエンジニアたちを取りまとめるような仕事はしていませんでした。優秀なエンジニアがそろっていましたから。

 最初は僕1人だったので、自分がやらなきゃという気持ちが強かった。でも、ウノウラボで外部に技術情報をどんどん発信していたら、ウノウの名前が有名になっていって、優秀なエンジニアが集まってくるようになったんです。

 もともとオープンソースが大好きなので、オープンにすること、アウトプットすることの大切さをよく知っているんです。技術はオープンにすることで発展してきました。オープンにすることのメリットはたくさんあるんです。優秀なエンジニアが集まった、というのもその1つの結果だと思います。

■ゲームが作りたい!

 そろそろ違うことがしたいなあ、と考え始めたのが退職のきっかけです。ウノウにはすでに優秀なエンジニアが集まっていたので、僕は離れてもいいだろう、と。

 いまは起業の準備中で、まだまだこれからやるべきことがたくさんあるのですが、やりたいことは決まっています。ゲームが作りたいんです。いわゆるブラウザゲームで、しかもFlashなどを使ったものではない、通常のHTMLベースのゲーム。

 テーブルゲームが好きなんです。特にカタンなど、ドイツのボードゲームが大好き。テレビゲームよりも人とのコミュニケーションの度合いが大きいのと、時間の進みがゆっくりしているのがいいんですよね。ブラウザゲームは、ボードゲームと似ている要素が多いんです。

 近いうちに、テストプレイができるくらいまでには仕上げたいと思っています。

■EIR(客員起業家)という制度

 いま、僕はピー・アンド・エー・ラボに所属していて、EIR(Entrepreneur in Residence/客員起業家)として活動しています。これは、企業から給料をもらいながら起業の準備をするという制度。日本ではまだ、ほとんど普及していません。シリコンバレーでは多いそうですが。

 EIRに関しては、日本語の情報すらほとんどありません。僕も、そういう制度があるなんてまったく知りませんでした。

 ピー・アンド・エー・ラボは、実はウノウ時代のお客さんだったんです。代表の吉田敬さんに、「実は会社を辞めて、こういうゲームを作って、会社にしようと思っている」という話をポロッとしたら、「それは面白そうだね。やろうよ。うちで支援するよ」といってもらえたんです。

 吉田さんといろいろ話して、ひとまずピー・アンド・エー・ラボに所属して、起業準備をするという形にしようと決まりました。そうしたら、それがEIRそのものだったんです。吉田さんもその制度のことを知っていたわけではなくて、お互いにあとで「そうだったんだ」と気付いたんです。

 今のところ、EIRに関する日本語の情報はモディファイの小川浩さんのブログくらいしかない。この制度は起業をしたい技術者にとって、とても良いものなので、もっと情報を発信していきたいと考えています。

■日本は起業しづらい

 日本だと、技術者が独立して会社を作る、となった場合、まずは食っていくために受託開発をするケースが多い。いずれは独自のサービスで……と思いながら、そのまま受託開発を続けてしまう企業が多いのではないでしょうか。

 シリコンバレーの場合、急成長を遂げたIT企業は大抵、受託開発はしていないんです。きちんと起業家を支援する制度や文化、投資家がいるからなんですね。

 日本の技術者はどんどん起業するのが良いと思っています。ですが、シリコンバレーに比べて日本は起業しづらい環境です。

 EIRという制度が普及することで、「それなら起業できるかも」と思う技術者や「支援したい」という投資家が増えるかもしれない。そう思っています。

■失敗しても損はしない

 起業を目指すに当たって、不安は特にありません。仮に失敗しても、損はしないと思っていますから。

 僕は昔、未踏ユースプロジェクトに採択されました。これは僕にとって、とても良い経験だったんです。だからよく、ほかの人にも勧めるんですけど、「俺には無理だよ」とか、「採択されるか分からないし……」といってチャレンジしない人がいるんです。

 僕にはその理由がまったく分からない。だって、失敗しても、損はしないじゃないですか。だったらやってみた方がいいに決まってる。

 もし、いまの会社にずっといたら、生涯でいくらくらいもらえるんでしょう。1億円くらいでしょうか。これが起業したらどうなるか。もっとお金を得られるかもしれないし、そんなことはないかもしれない。分からないわけです。でも、それはどうでもいい。自分のやりたいことをやるのが一番なんです。

 むしろいまは、ワクワクしているところです。それくらいじゃないと、できないですよね。

■不況のときこそチャレンジを

 不況は、起業の絶好のチャンスだと思います。不況になると新規事業が少なくなるので、競合が出てくる可能性が低く、競争が減るんです。

 「谷」のときに種を撒いておくのは、とても重要なことです。キャッシュを豊富に持っている企業は、不況のときに設備投資やM&Aを積極的に行います。理由は簡単。安いから。

 不況のときこそ、新しいチャレンジをすべきです。

■将来は、若い世代を支援したい

 いまは起業に向けて準備中ですが、もっと先の話として、いずれはインキュベーションもやりたい。今回、僕は吉田さんのおかげで、とてもやりやすい形で起業準備ができています。だから、僕よりさらに若い、後の世代を同じように支援したいと考えています。

 世の中、能力があってもお金がない人はたくさんいます。若い人なら、なおさらです。もしいまの僕のチャレンジがうまくいったら、次は新しい世代を支援したい。大きなことを成し遂げるのは、いつの時代も無鉄砲な若い人ですから。