「この世は舞台なり―― 誰もがそこでは一役、演じなくてはならぬ」

「この世は舞台なり―― 誰もがそこでは一役、演じなくてはならぬ」

言わずとしれたギイ・クリストフ・レッシュ初登場時のセリフ。裸の美女二人をはべらせてシェイクスピアから突然引用するなど、キザでインテリぶった(褒めてます)ギイのキャラクターをよく表している。初登場時なので当たり前だが、記念すべき最初のシェイクスピア引用文。

 上のセリフは『ヴェニスの商人』の冒頭のセリフ。理由のわからない憂鬱にとりつかれている商人アントーニオが友人のグラシアーノーに愚痴るシーンだ。『ヴェニスの商人』といえばキリスト教の商人アントーニオとユダヤシャイロックの対立を描く戯曲。エリザベス朝の時代には勧善懲悪の喜劇として楽しまれていたものの、人種差別につながるセリフやシーンも多く最近ではシャイロックの悲劇として演出されることも多い。このセリフのような、「世界を舞台に例え、人間を役者に例える考え」はシェイクスピア劇の中では多く、ラテン語を使ってtheotrum mundi(世界劇場)とよばれている。ギリシャ時代の演劇から伝わる考え方で、エリザベス朝時代の人々には広く知られていた。
 上に載せた『ヴェニスの商人』のセリフ以外にも、『お気に召すまま』の「この世界はすべてこれ一つの舞台、人間は男女を問わずこれ役者にすぎぬ」や、『マクベス』の「人生は歩きまわる影法師、あわれな役者だ 舞台の上で大げさにみえをきっても出場が終われば消えてしまう」など有名なセリフの中でこの世界劇場の考え方が見え隠れする。人は皆、自分という役を演じている。更に身分、年齢、職業に合わせてそれにふさわしい役割を演じさせられている。そんな人生観がシェイクスピア劇の中で表現されている。

 個人的にはアントーニオの友人でこの劇の全ての発端であるバッサーニオがダメ男過ぎて……(苦笑) アントーニオが不倶戴天の敵シャイロックから金を借り、事故で返せなくなったために裁判に発展していくのが大まかなあらすじなのだが、お金を借りた理由というのがこのダメ男バッサーニオの結婚資金にするため。バッサーニオは遊びすぎて金がなくなる度にアントーニオに借金をし、その金を返すために異国の金持ちの婦人と結婚して財産を得ようというのだ。しかも、その結婚資金をアントーニオから借りようという。借りようというバッサーニオもバッサーニオだが、貸す方も貸す方である。ユダヤ人に対して偏見ができているのはヨーロッパ知識人が多いがダメ男過ぎるだろう。